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どこか違う世界から来た人に言わせると、この世界は可笑しいらしい。 外に出てみれば。 道路を走る車。 歩道を歩く人々。 道端を走る虎。 空を飛びまわる鳥。 そして飛びまわる人。 テレビを付ければ。 バラエティに富んだ芸能人。 どこか手抜き感漂う明日の天気。 笑えるけどどこか泣けてくるコマーシャル。 冗談を混じり合わせながら喋るニュースキャスター。 アイドルの如くもてはやされる野球選手。 《打ったぁ〜!絶好調の西園寺13号ホームラン!!》 「うわ、すっげ…正貴さんホームランッ!」 バカそうな笑い声を独りで上げて、後ろへ振り返る。 当然誰もいない。 その様子に少し寂しくなったようで、独り溜め息を吐くと、そのまままた野球中継に見入り出した。 家の持ち主は只今外出中。 なぜか家の持ち主でもない彼が、悠然と人様の家でテレビを見ていた。 ガチャ。 乱暴にドアが閉められ、悲鳴を上げる。 機嫌が悪そうに廊下を歩く音。 そのままの様子で彼は部屋の戸を開けた。 「おい!」 「おっ!おかえり!!」 自然と、上にかけてある時計に目を向け、居座っていた彼は面白げな様子で機嫌が悪い家主に声をかけた。 「出てってから5分ぐらいか…うん、速い速い。」 「お前みてーなのろまと一緒にすんな。」 少し声に苛立ちを込めながら、家に居座る彼に手に提げたコンビニ袋を渡した。 渡された袋の内容を確認し、その中からペットボトルを取り出し一口。 「お前にパシられんの、一番嫌い。」 「はは、風牙の運が悪かっただけ。」 「…運はお前のほうが悪いはずなんだけどな。」 羽織っていたジャケットを適当に脱ぎ捨て、家主はテレビの前に座る。 付けっぱなしの野球中継に目を向け、コンビニで買って来たポテトチップスの袋を開ける。 「で?…なんでお前が俺の家にいるんだ?」 家主の名は竜凪 風牙<たつなぎ ふうが> 背中ほどある黒髪を軽く結い、耳にはリング型のピアス。学年でトップクラスの身長。 「え?いや、そのッ…留守番しててやっただけ。」 おどおどと返答し始めた彼を、意味も無く見つめた。 鋭く光る黄色の瞳に見つめられ、立場の低い彼は目を泳がせた。 そんな様子を取られるのは慣れているようで、彼は鼻で笑い顔をテレビに戻した。 他人からは睨まれていると思われがちな彼の鋭い目つきは生まれつき。 睨まれた当人も当然もう慣れていて、初見の奴より反応も薄い。 「青夜、俺の家を留守番する前に、まず自分の家の留守番をしろよな。」 《ピッチャー振りかぶって…》 「……いや…」 《おおっとぉ〜!》 「…あ?」 「…その…家には帰りたくないというか…」 叫ぶ実況アナウンサーを邪魔に思い、風牙はテレビを消した。 「あっ!ちょ、正貴さ…」 風牙の手からテレビのリモコンを奪い取り、スイッチオン。 「そんな早く打順が廻る訳ねーだろっ!」 スイッチオフ。 「で?帰りたくないから?」 スイッチオン。 「泊めてください!」 オフ。 「ヤダね!」 「あッ、貸せよコラ…!お願いします!泊めて、この通りっっ」 暴言を吐きつつ頼み込む可笑しい奴に顔を引きつらせながら。 「でも、明日学校だろ?」 「着替えはばっちり抜かり無しだぜ。」 「…………。」 彼はこういうことばかりいつもちゃんとしている。 遊ぶこと、逃げること、喰うこと、そんなことばかり。 「あのなあ、青夜。」 「何…?」 テレビを付け、その前にどっしりと構えお菓子を食いながら、ジュースを飲む… そんな彼の姿を見て、自然と殺人衝動が沸く。 「テメ、立場をわきまえろ…」 「…は、はい…」 手に持っていたペットボトルを机の上に上げ、彼は風牙の目の前で正座。 そして頭を下げた。 「何故帰らない?」 「…そ…それはですね、と…鳥女っ…」 頭を下げたまま、彼は目を泳がせている。 垂れた青い前髪で彼の目は見えないが、きっとそんな感じだ。 「…怒らせたのか?別に、明日会うわけだし、家に帰って鍵閉めて布団中うずくまってりゃいいだろが。ま、怒らせてもパターン的にいつも悪いのはお前だけどな。」 「大地も風牙もみんなそっちの味方だよな。」 下げた頭を上げ、少し乱れた前髪を手で戻しながら、悪友に言葉を吐いた。 もう一人の名は親友の名前… 「ま、俺らもボスには敵わねーよ。」 その前に、怒らせる原因は彼にあるのだから、彼女の味方をしても別に変じゃないだろう。 「…立場的に言うと、お前が一番下で、次に俺で、後の2人は微妙なトコだよな。」 「その構図、イマイチ気に入らないんですけど。」 「……ま、そんなこと思ってんなら実行に移して欲しいな。さ、さっさとお家に帰りな。」 見下したような目つき(コレも生まれつき…)で言う彼に、捨てられぬように何とかすがりつく。 「そ…そこを何とかッ、風牙様っ」 「…あー…もう…しっかたねーなッ…」 「ありがとうございますぅ!」 しつこい下宿志願者に折れ、はあ…と家主は溜め息。 親は家にいないし、人が一人泊まるスペースとしては申し分ない。 問題はこの下宿人がいて何も起こらずに済むか…だった。 「……あ、逆転されてる。」 「なぬ!」 さて、段落が着いたところで自己紹介。 オレの名前は水騎 青夜<みずき せいや> 中学二年なり立て。桜中学校ってところに毎日通っている。 風牙みたいに身体的特徴を述べよといわれると、ものすごく困る。 彼から−数cm、標準身長。 髪は青色。長さは肩に付くか付かないか程度。後は特に無し。 冒頭の「なんか可笑しい世界」の住人だ。 そんなこと自負したくないけれど、オレ的には可笑しい世界だとは全く思ってない。 そりゃそうだよな、住人がその世界の可笑しさなんて解るはず無いよな。 「いってきまーす。」 玄関の家族写真に語りかけると、靴を履き、ドアノブに手をかける。 いつも通りの代わり映えの少ないセーラー服と、少しくたびれた二年目のカバン。 緩やかな2つ結い。それと青色のスカートをなびかせて。 彼女は走り出す。 「ヤバイ…」 走り出して数分でもう息が上がり、彼女自身に苦笑い。 足は止まらずに、彼女はそのまま歩き出した。 走るよりもっと楽な方法もあるのだが、彼女はそれを使おうとはしなかった。 「あっ…帽子…」 「…ん?」 空のほうを見上げると、背の高い樹。 それと黄色い帽子。 ずいぶん高いところに引っかかっているようで、小さな女の子が塀に寄りかかって一生懸命取ろうとしていた。 近くを通りかかったときに、小さい子達に目線を合わせて聞いてみる。 「…どうしたの?イジメ??」 「あっ、鳥がわたしをいじめるの…」 「そーなの、あの鳥、返してって言ってもね、ぜんぜんきいてくれないんだよ。」 「…ふーん…そうなんだ?」 カバンを塀に立てかけ、もと来た道をほんの少しだけ戻る。 スタートラインからダッと駆け出し、助走をつけて飛躍。 塀を軽々と飛び越え、イジワルカラスの口から帽子を奪い一言。 「イジメはダーメ。」 唖然とこちらを見るカラスにウインク。 虚空から落ち、彼女の2つ結いが落ち着く瞬間までカラスは彼女を見つめていた。 「きゃあ!おねえちゃん、すごぉい!!」 「いえいえ。」 「飛べるんだね、おねえさん。」 「……ありがとう。」 伏し目がちに、彼女はお礼の言葉を。 「……あ!」 そのことに少し気になりながらも、こちらを見ている知り合いを見つけ帽子を持ったまま手を振る。 ギリギリまで待ったつもりだが。 いつまで経っても出て来ない親友を見るに見かねて自宅の前まで来てしまった。 寝坊していないか心配になり、インターホンを押す。 それから適当にドアの前で待つ。 「…はぁ…」 溜め息。 そのまま何も無い時間をすごしていると、表の方から、騒ぐような声が耳に入る。 その騒ぎに気になり、玄関からはなれ表通りに顔を出してみた。 「……あ!」 「…え…?」 「大地ちゃん、おはよぉー!」 何かを手に持ちながら、こちらに手を振る少女。 いつも見る彼女に驚き、少し言葉をなくす。 屈託の無い笑顔と、長い2つ結いの燃えるような髪。 「……かのん?おはよう。」 「おねえちゃん帽子…」 「あっ!ごめんごめん!!」 せっかく戻ってきた帽子がいつまで経っても戻ってこない。 そんな思いをさせてしまって少し恥ずかしく彼女は思ったが、笑顔で帽子を返した。 「じゃね。」 「うん、ありがと!」 折った腰と、目線を少し先の彼に合わせた。 「大地ちゃんも、バカのお迎えご苦労様です!」 「は…ははは……お互い様だけどね。」 「じゃ、学校で!」 そう明るく彼女が言うと、数秒後にはもう姿は見えなかった。 「相変わらず速いなぁ…」 自身もそれぐらい速ければいいのに。 と、少し羨ましく思う。 |