
|
ざく…
舗装されていない地に立ち、無造作に足元の石を蹴りながら歩く。 「ステイツともお別れか…」 上を見上げると飛行機が轟音を響かせ飛んでいく。 彼の短い髪と、ロングコートが激しくなびいていた。 …軍部の奴らの考えることもわからない。 理解したくは無いがな。 ステルス機を使えばいいものを。 …まぁ、いくら高性能のステルス機を使おうが… 人間の目は欺けたとしても俺の目は欺けやしない。 「……。」 この飛行機と共に、ターゲットはファーイーストへ飛び立ってしまった。 必然的に極東へいかなくてはならなくなったか。 ジャリ… 適当に立ち止まり、ポケットに手を突っ込む。 そこからキャンディを取り出し口に放り込んだ。 これからの日程を頭の中で描き、自然と溜め息も漏れる。 「…ジパング、か…サマじゃねぇな…」 不機嫌そうにそう呟くと、暴風でぐしゃぐしゃになってしまった髪形を適当に治した。 ココは毎日何も変わらない。日本という国。 毎日何が起こっているのか、いまいち追いつけない。 テレビをつければ年金やら税金の無駄遣いやら暗いことばかり。 チャンネルを変えれば大食いだの恋愛だのクイズだのこっちはバカみたいだ。 食の安全とか、政治と金とか… 日本の食料自給率が厭きれるほど低くて、これからの未来が心配になったり… 人様の血税を預かっといて、楽しくぱあっと使ってしまうお偉いさんたち。 世の中おかしい。 一般市民がそう思ったって、広い国だもの。 何も変わりはしないわ。 国民の代表って人たちは、ちゃぁんと機能しているのかしら? 「最近のテレビは面白くないなぁ…」 そう言いつつ、私は一週間の楽しみの一つであるテレビ番組を見ている。 内容は…お笑い芸人が、なんか…政治家と真剣討論をする、という内容。 いっそ、この人が内閣総理大臣になっちゃえばいいのに。 「…そしたら独裁政治かなぁ…?」 「そんなこと言ってる暇があったら勉強なさい。」 「…それは嫌。」 テーブルに頬杖をつきながらあぐら。 服装は、ストッキングの上からジーパン。 …デニム?そんなの知らないわね。 それとブラウスの上からジャケット。 学校帰りで即興の…余所の人様には見せられない姿だが、家の中だし面倒くさいから気にしない。 そうね、家に人も来なけりゃ彼氏もいないし。 「そういえば…最近超常現象な番組みないなぁ…」 「そんなブームあったわねぇ。あら天璃、そんな趣味あったの?」 「ないない。アタシのクラスの人にさ、いるんだよ。怪奇オタクが。」 私の通う学校に、「オカルト研究会」という愛好会がなぜかある。 「…そう。」 「…。」 テレビでは日本の経済についての議論がヒートアップ。 そうね、物価がどんどん上昇して、これからどうなっちゃうのかしら。 次々と企業が、商品の値上げを発表してくる世の中。 只今の日本は不景気真っ直中。 持ち直してきたとか聞くけど嘘みたい! 私の父さんも心配だわ。 準備されたままの食卓を適当につまむと、目の前におかれた小さな置き時計と目があった。 …もうこんな時間… 母親も会社へ出かけてしまったらしい。 身支度を整え、カバンをつかみ肩から下げた。 「んじゃ、行ってきます。」 誰もいない家で、寂しく呟いた。 今日も学校。 明日も学校。 面倒で仕方ないわ。 家を出てから歩いてすぐのところに、私の友人と待ち合わせしている場所がある。 はあ、きっと待っているんだろうな。 時間を気にする性分ゆえに、できるだけ早めに家を出るようにしているのだが、今日は友人を待たしてしまいそうだ。 「……あ…」 あら…私が待たせたかと思えば、待たされるのは私の方だったようだ。 「アメちゃん、ごめん、遅くなっちゃった。」 「ううん、おはよ。」 「おはよう。」 彼女は御影 麻由美<みかげ あゆみ>。 私と同じクラスの生徒で、幼馴染。 おっとりとした外見と、そのとおりの性格。 それと性格からは想像できないミーハー加減。 ……そういえば、私の自己紹介よりも彼女の方が先になってしまったわね。 私は間宮 天璃<まみや あめり>。 私立高に通っている。 高校二年生。 ただ、それだけ。 人として目立っている部類にいる訳じゃない。 活発な女というわけでもない。 「あ、見てあの人…カッコよくない??」 「…外人さん???」 「ホント、好きねぇ…」 彼女一面をみて今日も元気だなと再確認。 人間には個性というモノが上手くあるようで… 私に彼女の感性は理解しがたい。 「カッコいい…」 「そうかなぁ…」 ここも捉え方の違いか。 それにしても…すごい服装だわ。 ロングコートに…ああ、なんて言えばうまく伝えられるのかしら… ファッションに興味がないことと、伝えられないことが少し悔しい。 そう、そうよ。 一番目を引くもの…腹… いや、腹筋…確かに腹だけどっ… 腹出しよ、腹出し! あ、ヘソ出しって言うのかな…? んっ、私…少し遅れてる?? 「あ…アメちゃん??」 頭の中では忙しいが、表はフリーズしたまま。 ただ奇抜なファッションの人を見つめていた。 「アメちゃんってば…」 「麻由美っ学校っ…行かなきゃ!!」 「何、どうしたの?アメちゃんっ…なんか変だよ?!」 止めていた足をまた動かし、目的地へ歩き出す。 「…。」 すれ違いさまに… 「……きーめた」 ―え…? 気になり、振り返る。 背の高いコート男は何事もなかったかのように、奥へ消えていく。 「………??」 なんか…言われた?? 私あいつと面識…ないよね…?? ええ、あんな男知りませんとも。 「………」 「学校…面倒よね…」 気だるい体を動かし、昇降口。 入ってすぐの下足箱。 上るのがキツイ階段、そんなに長くない廊下に教室。 がらっ 「はぁ…」 「アメちゃん…疲れてるわね…」 …朝からあんな意味不なことがあったら、嫌でもこうなるわ。 ああ、気になって気になって仕方が無い。 本当にさっきの男とは関係は何も無いわけで、そう。 そうよ、きっと勘違いね。 個人的なことに対してただ呟いただけなのよ。きっと。 「おはよ」 「おはよう、まゆちゃん」 話し始めたアユミをそこへ置き、アメリは重い体を動かし、自分の席へ歩いていく。 どちらかというと窓側の、前から三番目あたり… カバンを机の横に掛け、不機嫌そうに席へ座る。 「今日も誠くんカッコいいと思わない??」 「きゃぁ〜!いいわよね!!でもやっぱり宴様も捨てられないわぁ〜」 「きゃ〜っ」 頬杖をつきながら、嫌でも聞こえてくる友人の声が頭を揺さぶり痛い。 (はっ…くっだらなっ…なにがいいのよ、なにが。) …朝から男、男、男… 冗談じゃない! ああ!朝のアレが気になって…気になって… 腹が立つわ!! 「ちょっと天璃っ…またオカルトオタクがうるさいのよ!なんか言ってあげてよ!!」 「…ん、んん…」 男のことを考えるなら、まだオカルトのほうがいいわ! そんなことを思ってしまうと、新境地を開いてしまいそうで怖い。 決して、そんなロクでも無い新境地を開かないようにと心に言いかけた。 「なんですってぇ?!いい、この世に不思議がないってことはないのよ!アメちゃん!!」 「……ミコト…、まぁ…なに、現実をみろってことね。」 そう、現実を見ろ。 今の私にとって一番聞きたくない言葉。それをオカルトオタクに投げかけてしまった。 今の自分の状態じゃ現実を正確に認識できそうに無い。 「くす…だって」 「むきゃーっ!オカルトオタクに現実も幻想もないのよ!だって幻想が現実なんだから!!」 その言葉を聴いた瞬間、無性に厭になった。 そんなコトといわれると、何も返せないじゃない。 幻想が…現実… イヤ…そんなこと今考えたくないわ…! …幻想に怯えている私。 どうして、かしら…? 幻想なんて見たことも、聞いたことも、遭ったことも無いのに… 何で今怯えなくちゃならないのよ!? 現世を頭からシャットダウンし、精神にこもる。 頬杖をついたまま、天璃の体勢は変わらない。 教室から入ってきた男子生徒が、奥で起こっている女の戦いに気づき、こちらに早足でやってきた。 十分高いと言える身長、流したベージュ色の髪の毛。 私から言わせてもらうと、キザ男っぽい。 「み…ミコトさん、落ち着いて…っしかも意味滅茶苦茶…」 「マコトっ!!あんたなんか言ってやんなさいよ!!…たとえば、オカルトの魅力とか!」 「げっ…俺?!」 「マコト、貴方オカルト好きなの?」 「なっ…それは無いっ…絶対に無い!」 オカルト研究会会長、水野 御言<みずの みこと>。 超現実主義者、野口ありさ。 そして、ミコトの従兄弟らしい水野 誠<みずの まこと>。 この三人と、後そうね…四人ぐらいいるかしらね。 私のクラスを紹介すると…この集団のせいで、毎年テレビでやってる超常現象論争みたいなコトが毎日起きている。 ハッキリ言って迷惑なクラス。 だから毎日が厭きないっていうのもあるかもしれない。 (…また、男…男なんて…) ちら…と斜め前の空っぽの席を見る。 「はぁ…」 …真嶋くん… 今日もお休みかな… (…やだ、私ったら…) 「…その真嶋って奴、カッコいいのか??」 「…さぁね。友人に言ったら地味で目立たないってバカにされたわ。」 目立たない同士、私にはお似合いよっ! 「………て、何いってんのアタシはっ…」 …?! ……これが幻想ってやつ…? 「ってあんた誰?!あ!朝見かけた外人ねっ!!」 「…外人…確かに、お前から見たら外人…か。」 朝見かけた腹男!! 腹男じゃなくて、なんというか…その… 奇抜ファッション男!! 「日本語達者ね…不審者扱いされる前に出て行きなさいよ。」 「…ククっ」 目の前の席に座る不審者が、不敵に笑いながら、大きな手のひらで私の頬を触った。 驚き目を見開いた天璃を見て、不審者は楽しそうに…そして無邪気な笑顔でほほえんだ。 「……俺のキャンディ…つーかまえた。」 「はっ…?!何…」 瞳を閉じ…頭を動かし、彼の手を振り解く。 「あッ…?」 周りを見渡してみても、制服を着込んだ見覚えのある人たちばかりで… 奇抜ファッションは見当たらない。 大体、不審者なんて…どこにもいない…。 「何…なんでいないの?!どこ行ったの?!あいつっ…ち…ちくしょーっ!!」 静かに考え事をしている…と周りが認識していた存在が、いきなり奇声を発したコトにクラスが驚き、天璃はひととき注目の人となる。 一斉に集まる視線。 どうしようもできずに彼女は再び辺りを見渡した。 「アメちゃん?!」 「天璃ちゃん??」 「…ぁ…何でも……ないよ?」 あのヤロ… これじゃあ私が「不審者」じゃない!! 元来た道をたどり、校舎を後にした。 少しほころんだ顔と…口の中にはお気に入りの飴。 …ステイツが恋しいといえば、恋しいが… ジパングもなかなか悪くは無いな… 『相棒。大胆なスタートだな。』 耳障りな声を聞き、彼の顔から笑顔は消え去った。 不機嫌そうな顔に移行。 口調も無駄に尖り始め、雰囲気も禍々しい。 「……うっせぇな…口で大人しくしてろよ…」 『ったく…身の程知らずが…』 耳障りな軽い口調。 無邪気に笑う声。 何もかも俺とは正反対。 『それにしても…あの小娘…どうするつもりだ??なるべくコンタクトは避けろ…』 校門から一歩外へ。 もうココは学校という場所では無いのだろう。 一歩出ただけなのに、これまで変わるものか。 学校ではないココで意味も無く足を休ませた。 すっ… 「…」 「…くくっ…」 何かあると、笑い声が出てしまうのが俺の悪い癖か… 「?」 いきなり笑われたのは通りすがりの学生。 彼は不思議そうな顔で振り向いた。 「ぁ!ホームルーム!!」 思い出したように前を向き、遅刻生徒は校舎へと走り出した。 なんなの…アイツ… どこの変人よ… ああ、考えている間にホームルームが終わってしまっていた。 誰かに聞かなきゃ、今日の連絡が… 「あっ、真嶋くん…!」 聞こえてきたのは親友の驚いた声だった。 「!御影…おや、皆さんおはようございます。」 ……連絡…… もうみんなウルサイ……何を騒いでいるの?! 騒がしい音が気になり、後ろを振り向く。 なんだか後ろの入り口に人だかりが出来ていた。 ……!! ま…真嶋くん…?! 「真嶋ぁっ?!」 「…おっ…珍しい…涼弥じゃん」 クラスメイトたちからはやされている彼は、少し恥ずかしそうな顔ではにかんだ。 「でしょ?」 この様子にも彼自身はもう慣れているようで、団体を押しのけ自分の席へと歩いていく。 彼が…真嶋 涼弥<まじま りょうや>。 まとまった黒髪と、きっちりと着こなした制服。 真面目そうな外見とは裏腹に、冗談交じりに話すユーモラスなトーク。 人によってはちょっと、お調子者と見られてしまうかもしれない。 なぜ彼が今頃学校に来たのか?と思う人もいるだろう。 そう、今はホームルームもいつの間にか終了し、一時間目が始まるのを教室で待つばかり。 彼のことを簡単に説明すると。 なかなか学校に来ない奴。 不登校でもない。 イジメもない。 家庭の事情らしい。 みんな彼が来ると驚く。 「あっ、なぁ誰かノート見せてくれよ!」 「はい。真嶋クン。」 「あっ…さんきゅ、御影!」 …あゆみ? 「よしゃ!書き写そ…」 「残念だが、タイムアップだ。真嶋。」 騒ぎを目にしたのか、後ろの入り口から理科教師が顔を覗かせた。 私たちの理科の教科担当は二十代ぐらいの新米の先生。 茶髪の髪に少し似合わない眼鏡。 「……あ…あはっ…ははは…先生、あと五分ぐらい…お茶しててもいいんすよ…?」 「今度一緒にお茶しながら補習するか?」 「あは…いいっすね…えへへ…」 menu |