ドロップ×キャンディ







 お前は俺の物。
誰の者でもない。
そう、誰のモノでも…

 「…間宮天璃…お前は俺の虜、だ。」
「………はっ??」
ぼーっとしかけた頭を無理やりにたたき起こし、しかめっ面。
こいつ、カッコだけじゃなく頭もおかしいわけ??
…ていうか、あたし…こんな奴に名前教えたっけ?
「バカじゃないの?何、あんた、将軍様の所へアタシを拉致する気??」
学校帰り、夕方、路地…
私だったらそういうシチュエーションに思えちゃうわね。
…被害妄想?
いや、変な男に声かけられている時点で、被害に相当すると思うわ。
「…何を言っているのかわからないが…」
あんたの方も充分わかんないわよ。
「…将軍?…この国の将軍は滅んだんだろ…?」
「べ、別に、この国のことじゃないけど…」
ため息と、つまらなそうな表情で指に絡ませる髪の毛。
くるくる…と。
そんな彼の髪の色は、薄い茶髪に赤いメッシュ。
髪型は…なんだろう?
私がファッションに興味ないから、なんていえば良いかわからないけど…
少しまとまったショートヘア?
んー…でもなんか違うような気がする…
それと…目を引くのは、モスグリーンの腰あたりからのぞく物体。
尻尾型のアクセサリーか何か?
爬虫類みたいな感じ。
「何であたしの名前知ってるの?あんたは…」
動揺を抑え切れてない私の真っ赤な顔と、平然とこちらを見つめる奴の顔。
なんて、対照的なんだろう。
私はそんな彼に少し恐怖を覚えた。
「…俺の名はアリスシィラ。」
…なんだか、アジアっぽくない名前だなぁ…
てっきり、あっちの工作員か何かと…
「…今日からお前は俺のモノ…だからな。」

ちょっと、私、完全には間違ってないのかも…?
「はっ!?…えっ?」
聴きなれない言葉を聴いて一度冷め切った私の回路が、また熱くなり始めた。
何…?!
コノ変態はっ!!
こいつのモノ?!
モノ?!!
思想がイケナイ方向へ行ってしまいそうだ。
「ばばば…バカ?!な、ななんでアタシがあんたなんかに…」
予想通りの反応だったのか、男は腕を組み満足そうに微笑む。
そして前へ一歩。
私は後ろへ一歩。
私はそんな彼にもう少し恐怖を覚えた。
「変態っ…ぁっ、『お帰りなさいませ、御主人様』って言われたいんでしょ!!?」
「……?」
渋そうな表情とともに、歩む彼の足がピタ…と止まった。
「あーやだっ、絶対やだ!!コスプレなんてもっとイヤ!!」
「…??」
まただ、理解できなさそうな男の顔。
こんな現代を生きる人間の癖に、メイドもコスプレもわからないのかしら?
私はそんな彼に恐怖を覚えなかった。
「…あのさぁ…」
「んっ…」
なにさ?
「自分の置かれている状況わかってる??」
ここぞとばかりに天璃は、変態男に指を刺しながらこう言った。
バーン!と効果音付で。
「わかってますわよ!あんたっ奴隷商人ね!!」
「……ぇ…ド、ドレイ…?」
先を突っ走る彼女に彼は追いつけることも無く…
遠い目で突っ走る彼女の言葉に目を動かした。
「ああっ、差別はあっても奴隷はなさそうな日本でこんな目に遭うなんてっ…!日本も怖くなったわね!!」
まあ、そうだけどさ…
なんで、彼女はそんなに想像力が無駄に豊かなんだろう…?
初めて見た時、コイツがそんな人物には見えなかったのだが…
「だれかーっ!助けてえ!!」
「じゃなかった。」
こういうとき、なんて言えばいいか、お母さんに聞いたことがある。
「火事だぁぁああああぁぁあッッ!!!」
「…ちょ、わかったから、黙ってろ。」
「火事ィィイイ!!」
真っ赤な顔して叫ぶ自棄な天璃と、叫び始めた天璃の口に手を当てる変態。
殺される…!このままじゃ拉致されて殺される!!
もう何も見たくない!
眼をギッツク閉じながら、彼の腕の中でもがいた。
そんな私に舌打ちをしたのか、それとも何か違うものに舌打ちをしたのか…
彼の余裕そうな声はいつの間にか低く、濁ったように聞こえた。
「……っ…もう、バレたか……」
「…ぇ…?」
多分、私が目を閉じている間に、まわりにはなんか、不思議な制服をきた人たちがぐるりと私たちを囲んでいる。
あ…これで何とか…あたし、助かりそう…?
「あんたっ…世界をまたにかける奴隷商人なのねっ…」
「きゃっ…」
さっきの感じなら、言葉を何かしら返してくれそうだったのに、彼は言葉も何も返さずに、私をきつく抱き返した。
ちょっと、それが寂しかったり。
ああもう、見ず知らずの変態になんて感情を私は抱いているんだろう…
「………。」
身長の高い彼を見上げると、鋭い目つきで集団を睨み威嚇しているようだ。
思想的に舞い上がっている私と、相変わらず冷静なツラしているけど、少し苦い表情の彼。
「それで人質をとったつもりか?!」
その中のリーダーっぽそうで偉そーな変わった服の人が凛々しく犯人に問いかけた。
人質…ってあたしよね?
つもりって…なによ、あたしじゃ不足してるわけ?
「…人質?…これが??」
これ…ってあたしよね?
「ちょっと!失礼ね!!さっきからッ『これが??』って何よ?!」
状況も理解せずに真っ赤になりながら喋る天璃に、彼は少し微笑んで顔を近づけた。
頬に感じる生暖かい吐息と、甘い香り。
氷のように冷たく動かない私の体と、その頬を溶かす暖かい何かが触れた。
……な。
これって……キス…なの?
外国人って…大胆……
「きゃっ」
私を夢見心地にさせておいて、彼はパッと私を放し捨てた。
それと同時に、周りの集団がここは日本だっていうのに、イカツイ銃器をこちらに向けたもんだから、頭も顔も真っ白になってしまう。
あたしは、コイツと違って一般の民間人…ですよ?
「ひえぇッ」
やだ、そんな怖いものこっちに向けないで…
「……!」
ロングコートを無駄にはためかせて、決め台詞。
「…お前ら…二度と俺の前に現れんじゃねぇ…!」
私はそんな彼に恐怖を覚えた。
なんだろう、このシチュエーション。
…傷害事件が起こりそうな予感…
「…なんなの、一体……」
「…クク…ッ…」
「なんなのよぉぉ!!」


 「……」
何が起こったんだろう?
目の前にゴミの様に転がる人たち。
そう、ゴミのように、呆気なく。
「…!」
たたずむこちらに近づき、彼は少し手を上げた。
…そして、彼女の顔に手を。
「いやっ…」
「…そう…」
切なそうな彼の顔。
なんで?何でそんな顔されなきゃいけないの?
「……」
しんと…静まり返ったこの場。
さっきまでの騒がしさが嘘のようだ。
あー、もう!
なによ!何でしみじみしなきゃいけないの?!
「…アイツらのせいで興醒めしたな…」
つまらなそうに彼は、ふう…と、息を吐いた。
そして、目線を私から足元へずらす。
「…な、なによあんた…何者?!何人??どこの国からきたの…??」
「……せっかちなお嬢さんだな…」
「な…!」
「…焦らして遊ぶつもりだったが、興醒めた。正直に教えてやろう。」
むか!
なんだ、えらっそーに!
「俺の名はアリスシィラ。どこからやってきたか…」
答えを言う前に、彼の指は天空を指差した。
オレンジから漆黒へと移り変わりそうな空へ。
「それは…お前らが言う宇宙ってトコ…」
「な!あんた!変態でしかなさそうな顔しといて宇宙飛行士?!」
「………話は最後まで聞け。」
彼が軽く私の頭にチョップ。
ずびしッって効果音がお似合いかな。
「痛ッ!」
「…俺は…お前等の言う地球外生命体って奴…?」
「はっ?」
なんだか、難しそうな言葉が出てきたから、思考が一瞬ストップした。
叩かれた頭をさすりながら、先ほど言われた言葉をリピートする。
地球外生命体??
地球の外の生命体って…
宇宙…人…??
「…まだわかんないかなぁ…?」
天璃の呆気にとられた顔が面白かったのか、彼は満足そうな顔でほほえみを取り戻した。
天璃の顔に腰を折ってあわせ、目と目で見つめあう。
「俺はエイリアンで、間宮天璃…お前は俺の捕虜だ。」
「………はっ…」
超常現象チックなもの…って…
存在していたんだ…
「やっぱり変態…」
「…くす…言葉には気をつけな…?」
折っていた腰を正すと、コートを翻しながら彼が少し歩き始めた。
「…俺、インベーダーだからさ…」
「いんべーだ??」
気の抜けた天璃の答え。
しかも聞き返された彼は、顔をしかめながら振り向く。
「…………。」
「横文字…あたし英語嫌いなの。綴りは??」
「……おま……invader…だ。」
歩いて開いていた距離が、少し縮まった。
「ちょっと待って、携帯携帯」
「…携帯電話なんて出してどうする…?」
あら、宇宙人の割には携帯知ってるのね。
携帯には辞書機能ってものがあるのよ。
「…I・・N・・・V・A・D・・E・・・Rっと…」
ポチっとな。
「えーと、…外国人…」
「……。」
あきれたような彼の顔。
眉間にしわを寄せて、彼が天璃に一言。
「…お前、ゲームとか漫画とか興味ないの…?」
「…なっ、なによ!なに、なんで、宇宙人の癖に日本文化に馴染んじゃってるの?!しかも…私、テーブルゲーム世代じゃありません!」
「…関係ないだろう、それは。」
そっぽを向きながら彼はこう言った。
余裕そうな表情で、なおかつイヤらしそうな笑顔で。
「…もしかしたら…侵略しちゃうかも。」
「へ?」
「そしたらこの世界と戦争になったりして…」
「…な…」
「…なんですって?」
「クス…まぁ、あんたの対応によって侵略するか、しないか…少しは考えてやってもいい…」
「…な…んですって…」
「…凄いね、天璃ちゃん。君が世界の行く末を握っているんだよ…?」
私、とんでもないものに選ばれてしまったようです。
そんな大それた物ほしくは無いのに。
もっと、別のものが欲しかったのに…
「今日からよろしくね、天璃ちゃん。」
な…なんですってぇぇ…!!
パクパクと口をあけたまま、天璃は苦笑い。
間宮 天璃。
17歳 高校二年生。
ロクでも無い新境地の扉を開けてしまいそうです。

 どんなに嫌なことがあろうが、時間は過ぎていきます。
時間だけは誰にだって平等に過ぎていくんだ。
夢のような出来事の所為で、食欲もわかなかったし、家に帰って早々テレビも見ずに寝てしまった。
…そう、あの男は私にあんな挨拶をして、どこかへ消えてしまった。
そのまま、どこかへ消えてしまえ!
「アメちゃん!おはよ」
「…おは…おはよ、あゆみ…」
毎日元気な私の友達…
暗いときの私とは相性最悪。
「…はぁ…」
「どうしたの?アメちゃん…いつにも増して暗いよ?」
一言多いわ!
いつも暗くて悪かったわね。
「夢…」
「えぇ?」
「夢よねぇ、うん。夢なのよ、きっとそう。」
そうつぶやきながら、彼女はとぼとぼと歩み始めた。
そんな天璃に困りながら、亜由美も横を歩き始めた。

 朝のニュースで、なんだか凄い詐欺師が捕まったらしい。
それはもう、戦後ナンバーワンとかそうじゃないとか。
そんな感じで、彼もただの出任せをつらつらと言っただけで本当は…
「…おはよぉ、天璃ちゃん…クス…」
な…んて…
夢であって欲しかった出来事が現実になり、私の顔は酷いことになっているだろう。
( ̄口 ̄)
手っ取り早く絵文字であらわしたら…そうね、こんな感じね。
「な…何であんたがそこにいるのよぉぉ!!」
しかもそれは…このクラスのレアキャラ、真嶋 涼弥の席だった。
よりによってなんで、なんで真嶋君の席なのよ…
「あー!昨日のカッコいい外人さん!!」
当然、ミーハーな亜由美が喰い付くわけで。
まあ、昨日見たときも喰い付いていた訳で。
「あれぇ、アメちゃんの知り合い…?でもぉ昨日…」
「おっ!間宮!!コイツ、間宮の家にホームステイしてる留学生なんだって?!」
「は…はぁ?!」
ほーむ…すてい?
えー…と、よく外国人が他の国に行って、家族の一員になるみたいな感じ?
ぅゎぁ…私今、家族の一員みたいなこと思ったわよね…
なんて嫌な冗談なんだろう。
「…ホームステイっつうか…俺、帰国子女なの…」
「はぁ?!!」
聴きなれない言葉を聴き、怪訝な顔でアリスに反応を返した。
そんな天璃に、アリスはニヤリと笑って見せた。
何よ、帰国子女って。女でもないのに不思議な漢字を書くわよね。
「天璃ちゃんのお父様と俺の父さんが友達なんだけど…」
…ふうん…そんな設定で?
「俺の父さんと母さん死んじゃって…そしたら天璃ちゃんの家で面倒見てくれるらしくて…」
ドラマのような展開ね。
そして突っ込みどころ満載だわ。
…それで?
「自立して独りで生きて行こうと思ったんだけど、周りには遺産目当ての奴らばかり…」
な…なに出任せつらつらと…
嘘も言えば…
「………ぅぅっ…」
こうなるのかっ…!!
「…天璃、そういやコイツ、名前は??」
「ゲッ…」
どうするもなにも…
名前は一応覚えているけれど、横文字だったわよね。
「アリス…」
つかつかと正面に構える黒板まで歩くと、下においてあるチョークをつかんだ。
そしてため息をひとつ。
…どうしよう…
「俺はアリスじゃなくてアリスシー…」
「漢字でねっ…こうかくの……」
カツ…カツカツカツ…
カンッと手に持つチョークで後ろの黒板を鳴らし、前を向いた。
有栖 椎良
手に持ってる携帯と、私の頭脳じゃこんなチープな名前で限界だった。
「ばっ…もっとひねって考え…」
異議を唱えようとして前に飛び出してきた“有栖”を言葉で遮った。
「なっ…仲良くしてあげてね」
「………。」
遮られた彼は、顔をしかめながらその場に立ち止まる。
なんだ、その意味のわからない漢字の並びは…
「有栖くん制服は…??」
「俺はアリスじゃなくてアリスシ―…」
「あのね!コイツ、イギリスにいたから、制服まだないのよっ…だ…だから、今日は私服なの!…よね??」
「…まっまぁな…てめぇら、アリスで切るんじゃねぇ…俺の名はアリスシー…」
「ばっ!!外人気取りしてんじゃないわよ!!」
「あんたの名字は有栖で、名前は椎良でしょ?!」
「なぬっ?!俺にはアリスシィラという立派な名が…」
「それはわかったってば、バカ!!」
(バカ!せっかく日本に合わせてやってんのにぃ!!)
(むぅ…気に入らんが、仕方ない…)
「あと!俺はブリテンから来てねぇ…ステイツだ!!」
「んな細かいトコ気にしてんじゃないわよ!」
バン!
突っ込みを入れた天璃が教壇を叩いた。
その様子にクラスメイトが少し身を引いた。
そして有栖 椎良まで身を硬直させた。
「…仲良いんだね…」
「なっ!こっちはいきなり来られてこまってんだからぁぁぁ!!」
「間宮さん、ソコ、私の立ち位置ね。」
「ひゃあッ!」
ドアを開けて入り口に立つ担任が、一声かけると…
蜘蛛の子が散る如く、みんな自分の席へと戻っていく。
「きりーつ」
「礼」
クラスメイトにエイリアンが増えました。
世界の行く末を握っている…なんて言われたって…あまりピンとこないので、いつもどおり過ごして行こうと思います。
そんなクラスだけど…
今日も相変わらず、真嶋くんは来ていない。




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