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「うぅ〜ん…眩しいな…」 日の光で目が覚め、横に寝そべっていたベッドから肘を付き、少しだけ身体を浮かす。 そのまま、数秒。 腰まである茶色の髪が垂れて暑苦しくも感じられる。 窓越しに身体を貫く光を睨んだ。 睨んでも、何かになるわけでもない。ただ…決して勝つことの出来ない存在に、意味も無く睨みたかったんだと思う。 そんな回らない頭で惚けていると… 『イリア。おはよう。』 大きな1つ目の怪物が、小さな背中の翼を忙しなく動かしてこちらに飛んでくる。 薄紫色のボールサイズの身体に、その身体に対して小さめな四肢。 控えめな大きさの翼。 「おはよう、ディズ。」 回らない頭でもこれぐらいは言える。 『イリア、お腹すいたでしょ?』 「………。」 さっきまで返事を返していた人が沈黙状態になり、少し不思議に思う。 心配そうに、ディズがイリアの方に寄ってきた。 頭を下げた彼の顔をのぞこうと、怪物は大きな眼をぎょろっと上へと動かした。 『イリア?』 するといきなりイリアの上半身がカクンっと前に倒れディズが後ろに飛び退く。 『ゎ。』 すー…と寝息が聞こえてくる。 『イリアっ、学校遅れちゃうわよ!』 怪物は小さな足で、寝息を立てている彼の頭めがけて、すこーんっと蹴り倒した。 地上と呼ばれるこの世界は、さまざまな国が繁栄を繰り返し、侵略し、吸収してはまた分裂し、滅亡していく。 それを何百年も繰り返しているらしい。 昼夜がハッキリしている地上は、一日の予定は大体決まっており、昼やること、夜やることの予定は大抵同じだ。 そんなけじめのついている地上と違って、 なんとなく感じられる闇が浅い夜と、闇が深い夜があるだけ。 昼夜の感覚は麻痺。 時間の感覚も麻痺。 この国のような国同士の権力抗争もない。 各一族が一束となり、その一束を束ねる“魔王”と呼ばれる存在がいる。 ただそれだけだ。 制服に着替え、朝食が並ぶテーブルの前に座ると、また睡魔に襲われる。 それよりも先ほどに蹴られた頭がズキズキと痛むので、蹴られた部分を気休め程度にさすっていた。 「痛いよ…ディズ。」 『あら、寝ちゃったイリアが悪いのよ。』 外見に似合わないソプラノヴォイスで彼女は自分に言う。 俺とは向かい側の椅子に座って、彼女はこちらを見ていた。 椅子に座るといっても、背もたれの天辺の部分に座っているのだが。 「そうだけど…」 彼の少し高めなアルトヴォイスが濁って聞こえてくる。 「彼」に対して「アルト」という表現は可笑しいかもしれないが、彼にとっては普通に交わされる単語であり、それと共にを劣等感を感じさせる言葉だった。 薄い色素の茶髪に腰まである長髪。 テノールヴォイスとは決して言えない声… それと少し細身に、色白。 彼自身、何もかもがコンプレックスの塊だった。 ふぅ…とため息をつくと、今度は用意されたスクランブルエッグを口に運んだ。 味気のない卵の味(って、どう表現するんだ?)が口の中に広がる。 浮かない様子で、パンを一口。 『どうしたの?イリア。』 「学校、やだなーって。」 『ええ??』 イリアは神学生だ。 ここ、首都のジャスティオンにある神学校に通っている。 もともとは地方にいたのだが、学校から推薦を受けてココに来たのだった。 今は独り暮らし。(ディズは人間じゃないからなぁ) 両親は、故郷に住んでいる。 両親といっても…いや、まだ語らないことにしよう。 イリアだけがこちらに上京してきたのだ。 「…スゥイークスが恋しいなぁ…」 故郷の名前を口に出し、ぐったりとうなだれた。 『ホームシックもいいけど、あそこはね〜…』 ぱちくりぱちくりと大きすぎる瞳をまばたきするディズを見て、またぼーっとし始める。 雪の町、スゥイークス。 一年中寒く、雪が降ることが多い雪国だ。 あの歳であの極寒は辛いだろうな。 あの歳で雪を掃くのも辛いだろうな。 と、自然と思考がこちらに行った。 『ちょっと。』 ぶつ。と思考をブチ切られて、イリアは我に戻ったかのようにディズを見る。 『学校、遅れるョ?』 「あッッ!」 急いでパンを口に詰め込み、バッグを取りに部屋に走って入っていく。 必要最低限のものしか入っていないバッグを手に取り、掛けてあった帽子とマントを掴み着こなしながら今度は玄関のほうへ出る。 「じゃあ、行ってくるね、ディズ。」 『いってらっしゃい。』 |