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「今日は悪魔が憑いてねーのかよ。」 「……。」 クラスでおとなしくしていると、俺の朝はこう始まる。 いつものことなので、慣れたように自分は団体になってからかってくる相手をスルー。 何度目か分からなくなったこの質問も、何度聞いても腹が立つ質問だが、答えるほど朝は余裕もないし、極力、奴らとはかかわりを持ちたくない。 一つ目悪魔(本当のところ何かはわからない。)のディズとかかわっている所為か、自分の変な噂が広まっていた。 例えば、学校の一部を黒魔術で破壊した。とか、魔界と交信している。とか、カタコンベでホムンクルスを生成しているとか。 明らかにありえない噂もあるし、聞いたコッチですら意味がわからない噂もある。 ちなみに、カタコンベまたはカタコンブ…と言うのは、地下墓所のことだ。 ホムンクルスも見ることの出来るものならお目にかかりたいが、自身が作るとしたら製法からして断然お断りである。 「変死体がみつかったらしいよ〜」 「きゃあ、誰がやったのかしらね〜、黒魔術でもつかったんじゃない??」 高い声を出し、女の子二人がわめいていた。 どーでもいい話で、それでも暇だから、聞く耳を持つ。 「それがね、死体に首筋を噛まれた痕と…血が一滴も残ってなかったんだって。」 「きゃぁ〜〜!」 そんなことありえるのか、と、イリアは机の上の腕を枕代わりにして寝ている格好だ。 「だから、 ヴァンパイア、ね… よく、ホラーキネマや小説とかに出てくる血を吸う、人の成れの果て。 永遠の命を持つが日の光を浴びると灰になるという。 はたしてそんな生物がいるのだろうか。 信じがたいけれど…ディズみたいな“魔物”もいるんだから、いるのかもしれないなぁ。 ディズに聞いたら何か分かるかな? よし、あとで聞いてみよう。 「イリア!」 「!」 「イリア・セイクリッド!!」 瞳全開で、伏せていた身体を急いで上げ、180度周りを二回ぐらい見渡す。 周りから嘲り笑う声が聞こえてきた。 嘲り笑うのは大いに結構。それでも自分は、今やっと状況を把握できたところなのだ。 「は…はひ?!!」 女性がこちらを睨んでいる。 「ミセス・シルビアすみませんでした。」 彼女はミセス・シルビア。 学校でも名高い性悪教師。そして最悪なことに俺のクラスの担任。 彼女の顔が全てを語るぐらい、性格と顔はわかりやすい。 つりあがった目やひん曲がった口に、トドメの高価そうな眼鏡。 …いかにも性格の悪そうなエリートぶったおばさんだ。 「全く、貴方は…神に仕える身となるのですよ?」 「は…はい…」 いつも思うことだが、自分は先生にも嫌われているらしい。 いかにも目の敵にされているのがこちらからでもわかってしまうし、周りもわかるらしい。 ………さっきのは自分が悪かったけど。 一通り、授業も終わり新鮮な空気に触れようと、外に出た。 空いているベンチに座り、自分はまた思いに耽る。 結局、あの後はずっと説教を喰らった。 人間的にできてないだの、17歳になって幼稚だの、どれぐらいけなされたかわからないぐらいに、まあ、結局散々けなされてしまった。 「ミセス・シルビアは酷いよねぇ。」 スッと、視界に入らなかった誰かが、横に座った。 「目の敵にしすぎだよね。」 「…ルナ?」 横に座った少女は、名前を呼ばれて、にこりとこちらに微笑んだ。 二つ結いの茶髪がしなやかに流れている。 少し、沈黙の間をおく。 そしてまた話し始める。 先に言葉を表に出したのはルナの方だった。 「イリアはぬけてるけど、頭いいし、ちゃんとしてるし…」 優しいし… という言葉は、無理やり胸にしまいこんだ。 「そんな、ことないよ。魔法全然できないし。それに比べてルナは…」 「魔法なんて、生活に必要最低限の魔法さえできればいいの。そうよ、この世には魔法なんかに頼らないで生きてる人がたくさんいるのよ?」 そう豪語する彼女はクラスでトップクラスの聖魔法使いだった。 ココは神に仕える神官を育てる学校であるため、白魔術が中心である。 基本魔術(土・水・空気または風・火などの四元素)の高位魔術が白魔術であり、攻撃に特化した魔術ではなく、回復能力・補助が中心である。もちろん、攻撃魔法も覚えるが、殺傷魔法ではないことは確かだ。光魔法とも呼ばれる。 その真逆に位置するのが同じく高位魔術の黒魔術だ。攻撃することに特化した魔術で、一発の攻撃力が高いが沢山の魔力を消費するので、多様はできない。それに、黒魔術はハードルが高く、本当に力のある魔術師が使わないと、術者自信が破滅に追いやられるというリスクつきなので、使うものは限られている。別名闇魔法だ。 …と、説明しても誰もが魔術を使えるわけではない。 魔力がなくては発動できないし、魔力があっても無理なヤツもいる。 自分も、その後者の中に入るのだろうな。 「光魔法…か。基本ができれば誰でもできるって聞いたのになぁ〜…」 自分の推薦は成績と基本魔術で来たような感じだし… それなのに神学校でのメインである白魔術をうまく使えないことは重く心にのしかかかっていた。 「そういえば、最近の魔界業界知ってる?」 「?」 彼女の持ち出してきたキーワードは「魔界」。 コレで彼女の趣味がほぼ露呈しているだろう。 …魔界。 何処かに存在するという異次元の世界のこと。 異次元ってところからして本当にあるのか俺にとっては疑わしい。 「魔王様が世代交代で大荒れなんだって。」 「へー」 中身のない返事を返した。 別に、魔界には興味ないしな。 「それがね…」 「うん。」 ふふん…と彼女は自信たっぷりにイリアに笑いかけた 「後継者が見つからないらしいよ。」 「…へー…」 空返事がいつまでも続いている状態だった。 ちょっと、ルナが顔をしかめてみせる。 「驚いてくれたっていいじゃない。スクープなのに。ってもミスファンに載ってたんだけど。」 「だって、後継者なんて適当に決めればいいじゃないか。」 「うぅー。だって、魔王様の跡継ぎ息子が、失踪してるんだよ?!何百年も前に。」 魔界オタクのルナは、ぎらぎらに目を光らせていた。 言ってしまえばコレが彼女の唯一のマイナス要素だった。 学校の中でも指折りの美人で、スタイルの良い身体。そして光る知性。 そんな表面では完璧の彼女だったが、この趣味のせいで(俺の中では)魅力が半減している気がする。 まあ、彼女のこの趣味を知る人間は学校でも一握りの存在だから、知らない人間の認識と知る人間の認識は違うと思うが。 そうとは言え…初めてこの話題を出されたときはこちらも驚いたものだ。 「何百年って…俺らいないし…生きられないし…」 返す言葉に困り、全くどうでもいいことをルナに返した。 ついていけない話に言葉を返すことほど大変なことは無い。 「後継者が見つからないのは、魔王様が何百年経った今でも自分の息子を探しているからなのよ!」 「……かんけーないしなぁ。死んでるでしょぉ、さすがに。」 オタクに付いて行くコトが出来ず、だれてきたイリア。 親よりも先に死ぬのも微妙だと思いつつ… それを見て、少しカチンと来たらしいルナは顔を真っ赤にして語り始めたのだった。 ルナが語り始めてから数十分後。 (俺、何しているんだろう。独りになるために来たはずじゃ…) なんて、思想も出始め、ルナもそれを悟り始めたらしい。 「イリア、これ、見て。」 「んんぅ?」 ぐったりとベンチに座り仰向けになっていた体と顔を戻す。 ずいっと彼女は自分に何かを手渡した。 =怪奇殺人事件 女子生徒変死体で発見= …新聞…か? 「えーと、早朝ジャスティオンのセントラル35番通りにて、スキュード神学校に通う女子高生の変死体が発見された。」 どおどお?と聞くかのように、ルナがこちらに視線を投げかけ、微笑んだ。 彼女の喜ぶ顔。 この事件は、オタクにとって凄く愉快な事件なんだろうな。 「スキュードって、ココの隣町の学校じゃないか。しかも35番通りはすぐ近くの通りで」 「…怖いね〜。近くに殺人犯がいるかもよ。」 恐怖をあおるかのように、ルナは一息止めて不気味な声を漏らした。 「しかも…前はウルディー神学校だったんだって。」 唖然と目を大きく見開いた。 ウルディーも隣町の学校だ。 ヴェルダンテ、この学校から見てスキュードとは反対方向だが、スキュードにとってもウルディーは隣町の学校だった。 「ウルディーも…じゃ、じゃあッッ…?!」 次に考えられることが頭に浮かんで、口調も言葉も早くなった。 「し…神学校潰しとはなんと高飛車な吸血鬼なんだ!」 「高飛車かはわからないけど?」 第一、高飛車の用法…あっているのだろうか? ふぅ、とルナはため息。 「きっと次はココ、ヴェルダンテ神学校。じゃないかなって。」 「……そ…そうかもな…」 ちょっと、ゾクッとした気がする。 首都ジャスティオンにある神学校はウルディー、スキュード、このヴェルダンテを入れて三つ。 少ないように思われるかもしれないが、これが普通だ。 地方には神学校が1〜2校あれば良いほうであり、神学校を目指して家を出るのも決して珍しいことではない。 それほど魔術を使う人も少ない故に、学校は少なすぎるわけでもないのだ。 均衡を丁度保っている、ということになる。 施錠しておいた鍵を解き、ドアを開け部屋に入る。 真っ暗な闇の世界になっている部屋を、電気をつけて明るくした。 「ただいま。」 『お帰り、イリア。』 奥の方から、魔物が飛んでくる。 少し言葉を交わし、ダイニングに着くと下げたカバンを放り投げ、まず先にソファに座った。 「俺って、可笑しいかな。」 『何をいきなり言い出すのよ?』 帰ってきて早々、こんなしんみり系な話の種をイリアが持ち出したので心底ディズは驚いて、大きな眼を瞬きさせた。 「吸血鬼って実在する?」 『……は?』 ぜんぜんしんみりしない言葉をかけられて、ディズは言葉をなくす。 自分は可笑しいのか?と訊いてきて、吸血鬼は存在する?って、脈絡がないな。 …はッ!もしかして…他人の血を吸った自分が可笑しく思えてきたのか?! と、なんだかわからないほうへ思想が脱線していく。 「吸血鬼ってホントにいるの?」 『…いるわね。』 「そっかぁ。」 『…どーしたの?あ、わかった。学校で吸血鬼扱いされたんでしょ。』 その問いかけに、少しムッとしたが、きっとあの会話の中に自分への中傷が入っていただろうから、立った気も冷めていく。 「殺人事件だってさ。カラカラに干乾びた人間の死体。」 『それで吸血鬼??』 興味津々そうに、ディズはまぶたをぱちくりさせている。 「そう、殺人事件があったってのは本当。新聞記事に載ってた。」 『で?ほかには?』 「次の殺人はヴェルダンテだよ。」 『ふーん…ヴェルダンテ…。…ヴェルダンテ?』 「吸血鬼も餓えてんのかなぁ?」 ……。 「なんか周期的に人殺してんだよね。バカだよなぁ。いかにも『捕まえてください』って言ってるもんだよなぁ。あー…でも『俺を捕まえてみろ』なぁんて教会バカにしてんのかもな。」 ……………? 『ヴェルダンテ?!!じゃ、じゃあ!イリアの学校で誰か一人死ぬってこと?』 「…そうらしい。」 はぁ〜…と、魂まで抜けていきそうな溜め息。 ソファから立ち上がると、フラフラ歩き寝室のドアを開けた。 自分のベッドに倒れこみ、考えを重ねていく。 狙われてるのは、女の子ばかりだ。 お約束的にやっぱり女の子なのかな。 ………ルナ、大丈夫かな。 |