UNDER WORLD






 漆黒の夜が訪れて、とうとう吸血鬼ハントということになりました。
さて、死ぬ。と宣告されてしまった私ルナですが、そんなことはもう気にせずに、ヴァンパイアの登場を待つばかりです。
「イリアのヤツ…もう、バカ。」
そしてルナの横でも愚痴る約一匹が…
『……イリアったら、私を使うなんて。』
※ディズは姿を消していてルナには見えない。
『全く…』
ふぅ…と両者溜め息。
「でないねー。ヴァンパイア。」
バサバサ…と夜になり活動してきた蝙蝠に過剰に反応してビクついた。
そんなに簡単にヴァンパイア様が出てくるとは思えないけれど。
「そうだね、オリビアさん。」
ふふ、とクレストが笑った。
切なげな彼の顔が、私の胸に突き刺さり痛い…。
「どうかした?クレストくん。」
「オリビアさんって…さ…」
いつにも増して真面目な表情と、すこし辛そうな表情で彼は私を呼んだ。
あたりは真っ暗で、街灯が怪しく町を照らしている。
「オリビアさんて、好きな人いる??」
彼の口から出るとは思わなかった言葉に、ルナは大きく目を見開いた。
彼女の口からも気の抜けた声が漏れる。
「え?」
行き成り優等生で、評議員な彼に言われて、ルナは驚いてしどろもどろしている。
言ったほうの彼も、相当勇気が必要だったのか、恥ずかしそうに顔を俯かせた。
頬を紅く染めて。
「行き成り、何を聞くのさ??」
「……恋愛事情?」
「ひ、ヒミツ。」
真面目な彼でも、こんなこと聞くんだなってルナなりに驚く。
「やっぱり…」
「……?」
「やっぱり、イリア・セイクリッド…?」
言われた瞬間、すこし頭が真っ白になった。
そのような様子のルナを見つめて、クレストは目を伏せ溜め息を吐く。
「そ、それよりもさ…ヴァンパイア、って一体何なんだろうね。」
『あらあら…』
狩ろうとしている人が、こんなことを聞くなんて…と、今度はディズが驚いた。
多分、彼女自身の知識は相当のものだろうが、きっとこの場の話題に困ったのに違いない。
「…ヴァンパイアは、不老不死で、血を吸った人間を操ったり、こちらの世界に引き込んだりするんだよ。」
「へ…へぇ…」
……なんだろう?
本能的に危険を感じたのか、ルナが後ろに身を引く。
身を引かれたクレストは少し悲しそうな表情で首を傾げた。
そのまま、じりじりと…ルナは一歩ずつ後ろへ下がっていく。
「どうしたの?オリビアさん」
クレストの言ったことに違和感を覚えて、問いかける。
「こちらって…、どちら?」
ククク…と、クレストは肩を揺らしてルナに笑う。
それが、甲高く、嘲笑へと変わっていった。
「そんなの決まってるじゃない。ヴァンパイアになるんだよ。」
彼の楽しそうな笑顔。
ゾクッと、悪寒を感じて、足がすくむ。
何これ?これがあの、人望の厚い評議員?
…嘘、でしょ?
「な…へ…変だよ、クレストくん。」
その言葉を聴いた彼はハハハハ!と醜い笑顔で自分に笑いかけるのだった。
「前からずっと、オリビアさんのこと好きだったんだよね。」
「………。」
…好かれるのは嬉しいことだけど、襲われるのはお断りね。
さっきまでの彼はどこに行ったの?
と、思えるぐらい、彼は豹変して頭が可笑しいぐらいに嘲り笑っている。
「イリアなんかよりも、僕のほうがオリビアさんに似合うと思わない?」
歪んだ彼の笑顔に、今更後悔を覚えた。
ああ、あの吸血鬼さんの言う通りにしとけばよかった…。
「オリビアさんだって、永遠の命と、永遠の美貌が欲しいでしょう??」
そう言いながら、立ち竦んで動けない自分の身体に、彼の身体が寄る。
一息。
「お断りですっ!弾けろッッ!!」
パシュウっ!
超近距離で光を飛ばす。
光っても、初歩的な簡易魔術だけど。
すると、光が彼の肩を浸食しながら燃やしていく。
「!やた!」
「?!う…?」
ヴァンパイアかもしれないから、光が効くでしょ?!
と、浅はかに考えつつ…
効かなかったら、アタシは…
「小賢しいな…」
燃やされ、灰となって無くなった彼の肩は空洞。
キィキィと、囁く蝙蝠が、肩の穴を埋めてあっという間に修復した。
「う…うそぉ…や…やぱーり、君はヴァンパイア?」
「フフフフッ…」
余裕そうに腕を組んで、彼は私に笑いかけた。
ヴァ…ヴァンパイアなんてなりたくないけど…
で、でも、ヴァンパイアって楽しいかなぁ??
って、何思ってんだ私は!!
「じゃあ、君が連続殺人犯?」
「クス…そう、いかにも。僕がみーんな、啜ったのさ。アハハッッ」
無邪気そうに笑う彼に、強い恐怖と不快を覚えた。
狂気に震える彼は、自分の手を見ながら、私に言う。
「美味しいよ。一度味わうと、この世のものなんて全て美味しく無くなっちゃうよ。」
「……。」
「それを、オリビアさんもわかってくれると思うんだけどな。…あ、でも、駄目か。イリアがいるから。」
「!」
「イリアを殺せば、心置きなく僕を愛してくれる?」
バカじゃないの…!出来るわけ無いでしょう?!
そんなことをした暁には、貴方に苦痛を味わわせながら殺してやる!
ああ…大声で喚き散らしたいのに…!
恐怖で声が出ない…
「…嫌…嫌よ…」
後ろへと、必死に震える足を進めていく。
よろけて転びそうになるが、転んだらもう終わりなんだろう。
転べない。
「どうしてそんなに避けるわけ?無駄だよ、もう、君はもう僕のもの…」
一瞬で、こちらに迫ってきた彼に、もう抵抗できないんだって、脳裏に響いた。
歪んだ彼の顔に、泣きそうになりながら思うことは…
イリア…のバカ!!!!
「き…きゃああぁあああぁあぁッッ!!!」

 誰もいない廊下に立ち、窓を見つめればもう夜だった。
曇った夜空が、いっそう不安を駆り立てる。
「ルナ…大丈夫かな…」
「そんなに心配なら、見に行けばいいのに。」
………。
…そう、彼の言う通りだけど…
でも…
「俺は行くつもりだけど。」
え?と不思議に思ったイリアは、ナディアの顔をまじまじと見る。
「何で、ナディアさんが行くんですか。」
え?と今度はナディアがイリアに不思議そうな顔をした。
「何でって…それが俺のお仕事だから。」
ナディアがイリアの顎をキュッと固定する。
――?!
「それじゃ、ダメ?」
顔を急接近されて、唇と唇が触れ合った。
その状態が約5秒。
なに…?
何が、起こってる……?
冷たい。
「?!!!!」
「…!?」
怪訝そうな表情でナディアはイリアを見つめた。
そして冷たい両手でイリアの顔を捕らえる。
「なんで…」
冷静すぎる長身の彼と対照的に、壊れたような蒼い顔。
イリアの頭の中は真っ白で、サイレンだか救急信号だかバイオハザードだかが発令し、とにかくパニック状態に陥り、きょろきょろきょろきょろ忙しなく首を動かす。
「なぁ…なあにするんですかぁぁあああああぁああぁ!!!変態ッッ」
力いっぱい、目の前にいたナディアを両手ではっ倒し、ぜーはーぜーはーと、イリアの息が荒くなっている。
「!」
避けまくりで、後ずさりしまくりで、泣きまくりで、今のイリアは乱心して凄いことになっていた。
「驚いた…。」
「それはコッチですよぉッッ!!」
何がなんだかっ…
首都には変な人がたくさんいるって故郷の人たちに沢山言われた。
ホントに…ホントに…あぅあぅ…
田舎に…帰りたい…
先ほどの出来事と、ホームシックが相乗効果になり涙が止まらない。
そんな様子のイリアを深刻に思ってか、彼はイリアの涙を優しく拭う。
「…俺の 接吻 キス 、平気なヤツ存在したんだ…」
大きく見開いたナディアの瞳に、コッチの瞳も大きくなる。
「え?」
「お前、本気で気に入ったよ!」
嬉しそうに彼はイリアにほほ笑んだ。
バシバシイリアの背中を叩いて、何度もイリアに笑いかける。
「あははッッ」
「あの、俺はどうなっちゃうの??」
一方的にキスされて、一方的に笑われて、イリアはもうついていけない。
ちょっと、熱が冷めてから。
「でも、どーせなら女の子がよかったなぁ。ま、イリアちゃん可愛いからいっか。」
「イリア、ちゃん?!!」
最高に頭が痛いイリア。
可愛いからいっか、って!なんだそりゃあ!!!
よくないだろう、それはっ!!!
泣いてスッキリしたのか、付きまとっていたホームシックはいつの間にか消え失せていた。
「さっきはゴメンネ。結構な年上お兄さんだけど、ナディアでいいからねっ。」
結構な年上お兄さんって…1つ上なんじゃないんですか??
「ナディア。」
「?イリアちゃん?」
「“ちゃん”やめて。」
ぶすっと愛想の消えた仏頂面でナディアを睨みつける。
そんな無愛想なイリアの顔を見て、クスクスっと彼が笑った。
「可愛いなぁ、イリアは。弟みたい。」
そう言い終えた、ナディアの顔に、なぜか悲しみが見えたような気がして、ドキッとした。
寂しそうな眼でこちらを見たかと思うと、またすぐに元に戻した。
「弟…いたの?」
「さて、いこっか。」
「え?」
いきなり何を言われたのかわからなくなり、彼の顔をまじまじと見た。
「見せてあげるよ。俺の本業。」
自信たっぷりにこちらに笑みを送ってきたので、イリアは濡れたまぶたをぱちくりと瞬きさせた。

「大丈夫、痛みなんて、すぐに治まるよ。」
「アタシの意見を聴けぇ!!!!」
ドゴッ!!!
蹴りをお見舞いしたルナだった。
「ふぐッッ、まったく、元気なお嬢さんだ。」
「アタシは嫌なんだよー!!」
ダンダンと、片足を地に何度も叩きつけて怒りを表現しているルナさん。
可愛さのかけらも無いルナを見て、相手は余裕そうにニタニタ笑っている。
「可愛いねぇ、君は…」
音も無く迫られて、頬が引きつる。
やだ、これで終わり?
「ひ…」
敵が嫌なほどに鋭い歯を見せ付けて、にこりと笑う。
押し潰されそうな恐怖に、死への覚悟を決めたとき。
ドギャンッと凄まじい音を立てて閃光が煌いた。
「え?」
近くに吸血鬼がいないことを確認して、助けられたんだ、とひとまず安堵に胸を下ろす。
『…吸血鬼にしてもよかったかなって思ったけれど、それじゃあイリアが怒るものね。』
しかし、いきなり現れた1つ目の怪物に、もう頭はパニック状態。
「こ…殺される?!」
『あら、死にたいなら死ぬ?』
恐る恐る怪物に声をかけた。
「さっき、イリアって言ったよね?」
『ええ、イリアが貴女を見張ってろってアタシに命令したのよ。』
イリアが?!
あたしに?!
幸せだーッッ! ハッピィで一人舞い上がるルナに、ディズは牽制。
敵を前にしてか(どちらのかはわからない。)ディズにはいつにも無く緊張感が漂っている。
『貴女、そんなに舞い上がると、死ぬわよ。』
「へ?」
シャアアァ…と、威嚇する声が聞こえた。
『今ので、完璧怒っちゃったみたい。』
「貴様ぁ…魔物の分際で…」
ディズの目の前で彼が凄む。
彼が凄んでも全然ディズは動揺しない。
『貴方も、たった数年の怪物風情で私に言わないで頂戴。』
「…あわわわ…」
両者にらみ合いが続く。
アタシ、この間に逃げられるんじゃない??
しかし、足が思うように動かないのだ。
ふと…眼に留まる。
目の前に飛び出してきた長髪の人物に。
「喰らえっ!光魔法…」
聞き覚えのある声を聴いて、胸が高鳴る。
アルトヴォイスが、自分に心地よく響いている。
「レイ!!」
発動時間をおいて、言葉を出してから2秒ぐらいしてから光が収束し始めた。
収束した光が今度は飛び散る。
無数の光が地上に降り注ぎ、いとも簡単に敵の身体に穴を開けていく。
「がは…っ…イ…リア…てめ……」
光で浄化された所為か、彼からは一滴も血がこぼれなかった。
「ディズ!ルナ、お待たせッッ!」
『イリア遅いわよ。』
ふう…と、彼女は溜め息。
「イリアーッッ、バカー!!」
ぼろぼろとルナから涙がこぼれだす。
「…ルナ…?」
無意識なのかは解らないが、そのまま彼女は俺に抱きついた。
必死に嗚咽をこらえながら。
自分のか弱さを見せないように。



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