
|
「やればできるじゃない!白魔術。」 イリアの苦労を知ってるがゆえに、心から祝福してやった。 しかし、さっきまでの元気は何処に行ったのかやら、イリアの顔が真っ青に染め上がっている。 「は…はは…でも…体が……痛い。」 肩を押さえて、よろよろと足がおぼつかないイリアに、ルナがバシン!と音が響くほど叩いた。 「ひゃッ?!」 「恐かったようぅ…」 「…ごめん…」 「イリアくん、感動の再会は良いんだけど…」 こちらもよろよろとおぼつかない足取りでイリアに近づいた。 「今のレイ、俺にも結構効いた。」 ハスキーヴォイスになってしまっている彼の声が聞こえた。 あいたたたーと、凄くつらそうな表情で、恨めしそうにイリアを見る。 「な…ナディアっ…ご…ごめ…」 「ま、俺にもこんなに効いたんだから、直接的に受けたアイツは相当効いてるだろうな。」 コレぐらいで死ぬほど、吸血鬼は弱くは無いが、きっと足止め程度にはなっただろう。 「え??」 見覚えの無い人物に驚き、ルナはイリアに説明の要求と助けを求めた。 そんな様子のルナを見て、にこりとナディアが笑う。 「昨日、外に出ちゃダメって言ったのに…」 「あッッ?!いや、そのぉ…あ…あはー」 何故かルナがでれでれに真っ赤だ。 え?どゆこと?? ほ…惚れ…ッ?! いや、その前になんだ、この面識のありそうな会話は… 「アタシ、てっきり貴方が連続殺人犯かと思っちゃって〜…」 「…そう思っても仕方が無いかもね。似たようなことしてるから。」 な…ナディアまで連続殺人犯?! 「あれ、でも昨日は髪の色、赤でしたよね?」 「……ん、まぁ…見てて。」 ゆっくりと彼の髪に赤みが混ざってくる。 数秒も経つと、完璧に真紅の色が髪を染めていた。 イリアはぼーっと、その光景を見ているだけ。 逆にその光景にルナは驚き、後ろに飛びのいた。 蹲って悶えているヴァンパイアを確認して、そっちのほうへ歩いていく。 ソイツの丁度後ろに立つと、ソイツが反応したらしく、後ろに顔を向けた。 「クレスト・ヴラディア?」 何でナディアがやつの名前知ってんだろうな。 クレストの正体を教えてくれたのも、彼だった。 いつも近くにいたはずの俺らはクレストについて何も解らなかった。 しかし彼は違った。 目の前にいたのは平静を装った血に餓えた人形だ…と。 俺に言った。 まさか、いつの間に…あのクレスが死んでいたなんて。 「…………。」 「お前、これに見覚えある?」 ポケットから手帳を取り出すと、長身を折って証明写真を彼に見せてやった。 「これって、ウルディーの学手じゃない。………あ。」 ハッとしたように、ルナが口元に手を添えた。 「知っているに決まっているでしょう、僕が…殺したもの。」 冷淡に、彼は吐き捨てる。 また、彼は嘲り笑った。 その様子の彼に、ルナは強い憤りを覚えた。 「ニコル・サフィアー!一番初めに殺された、女子生徒ね。」 「でも、これを…どーしてナディアが??」 そういわれて彼が、折っていた長身を戻すと、簡単に説明を始める。 「彼女は感染していたってトコかな。」 「感染?感染って…何に?」 意味もわからずに、イリアの周りには、ハテナがいっぱい飛んでいる。 「感染って、コイツにだよ。」 そういうと、ナディアはクレストに指を指した。 「は?」 またしても意味のわかっていないイリア。 「ヴァンパイアに噛まれた人間が、ヴァンパイアになっていたってこと。」 襲われる直前に敵から聞いたルナが、イリアに言う。 「はー。でも、殺されたって。」 んー、とナディアが少し唸った。 「噛まれると死ぬ。死ぬとヴァンパイアになって復活する、必ず復活するとは言えないけど。そしてまた誰かを噛む。…別に死ななくてもヴァンパイアにもなれるけどさ。」 「アタシ、ヴァンパイアになるとこだったんだから〜〜!」 イリアの襟首を掴んで、ぶんぶんルナは振り回した。 その行動についていけないイリアはその力の行くままに振り回される。 「…すげー増えますね。」 「ああ、そうだろ?だから俺みたいなのもいたりするんだけどさ。」 「へ?」 途端に彼がしゃがんだので、イリアは意味がわからなさげに首をひねった。 「な?」 「お前…も…もしかして…ッッ」 ばさ…と、表情をなくしたクレストが、相手と距離をとる。 「ああ、話していたうちに、結構修復しちゃったか…」 パッと、いきなり現れた見慣れた魔物に、イリアは視線を移す。 『ざまあって感じよね、イリア。』 「え?ディズ?」 蒼白な表情で後ろに下がっていく…クレストに、ナディアがじりじりと詰め寄っていく。 「ニコル・サフィアーには土に返ってもらったよ。」 「あ…あぁ…来るな…」 虫のような声で、追い詰めてくる奴に言うが、全く奴は聴きそうに無い。 「アリア!!いないのか??!」 きょろきょろと、周りを彼が見渡す。 「アリア!!アリアッッ!!!!」 声を張り上げて言うが、誰も反応を示さなかった。 「スキュードのアリア・ディズィーなら、もういないよ。この世に。」 「アリア・ディズィー?」 新聞をあまり注意して読んでいないイリアは、全くわかっていない。 それを彼女は理解したらしい。 すぐさまに、ルナは解説を付け加える。 「スキュードのアリア。連続殺人事件の被害者よ。」 「あ、ああ…」 「アタシもあの中に入っていたかもしれないって、考えると、ゾクッと来るわね。」 「…そうだね。」 …イリアは私のこと心配してくれたかな? ……今はそんなこと考えている場合じゃないか。 「お前がアリアを…」 キッと睨まれた瞳を睨み返し、距離を縮めていく。 「元はといえばお前だろうが。」 「うるさい!穢れた血… その単語を聞くと、追い詰めていた彼がクス…と、笑ったような気がした。 「それは、単語そのまんまだから。」 先にルナが突っ込んでおいた。 きょとんとして、言われた本人は彼女から何を言われたのか脳内再生する。 そして行き着いた先。 「ヴァンパイア・ハンター…って、それぐらい俺だってわかるから!」 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出したイリアを横目に、構わずに仕事を続ける。 「おやすみ。」 カァッと大きく口を開き、1啜り。 血が滴り落ち、鮮やかに色を染めた。 囚われた吸血鬼は眼を大きく見開いたまま静止して何を考えているのかは覗けない。 口の中に甘味が広がっていく。 「「!!」」 想像を絶する光景を見て、二人は立ち竦んだ。 「あ……っ…うッッ!」 「!」 バッと、振り解かれ、ナディアが唖然とクレストを見た。 二人とも目が合い、そのまま。 「ハ…ハハハハハ…ッッ!!」 手負いの化物は震えながら、狂った声を上げる。 「アハハハハハハハ…ハハハハッッ…コロシテヤル…!」 負傷した肩を異常なまでに震わせて、いつまでも笑いが止まらない。 「ィヒヒヒッ…ヒヒィ、ヒ…セ…イクリッド…殺して、殺ル…」 そんな光景に、イリアとルナは眉をひそめて見つめた。 異常な笑いをとめ、彼が一息…間が訪れた。 「絶対…」 ギラリと彼の瞳が妖しく光る。 「絶対、手に入れるよ…ルナ。」 言い終えた直後、ばんっと体が破裂したかのように彼が無数の蝙蝠となって霧散した。 嫌なまでに悪寒を感じて、ルナはガタガタと震えだす。 それを見て心配したイリアは、ルナの顔を覗き込んだ。 「る、ルナ、大丈夫だって、もういないから…た、多分。」 と、いいながら周りをきょろきょろ見渡すイリアくん。 てか…俺、奴に死刑宣告されたぞ。 「い…イリアぁ…アタシ…どうしよう…」 「ど…どうしようったって…俺もどうしよう?」 そこで、ルナはイリアの勇ましい言葉を期待していたのだが… コイツに限ってそんなことはありえるわけ無いか。とガックリ頭を下げてしまったのだった。 =ルナ脳内放送中= “ヴァンパイアなんて僕が!蹴散らしてあげるよ、ルナ!!” “ほんと?!イリアったら頼りになるわぁ!” =脳内放送打ち切り= (なぁ〜んてありえないかぁ〜…はぁ…) 「どしたの、ルナ?」 「べっつにぃ…」 ぷい、とソッポを向いたルナにイリアは感情の起伏の激しさについていけないなと痛感。 「鈍感だなぁ、イリアは。」 「な…ナディア!」 空のほうから声をかけられ、俺はビクついてしまった。 真紅の髪と金色の瞳がますますドキッとさせた。 「…恐い?」 にっこりと笑いながら両手で頬杖ついた状態で彼が問いかけてくる。 「俺は別にッ…いろんな意味でなれてるから。」 「…終わった…んだよね…っ…く…恐かったよぉ…」 涙を流しまくりで、ルナが声を嗄らして泣いた。 「元はな、お前が忠告されたのを無視して実行したからこうなったわけで…」 「ばか―――!!!」 「ぶふッ!」 1mぐらいブッ飛ばされたイリア。 どしゃぁっ。 びくびくと倒れたまま、ケイレンみたいなことを起こしている感じになっている。 その様子にはナディアもタジタジだった。 「いや、あのストーカー加減、きっと行かなくてもわたし狙われたわ!」 「「………は、ははは」」 苦笑いで両者ルナを見た。 「いや、でもオタクの血が騒ぐわ!」 「それでこそいつものルナだよ!」 やっと立ち上がって、息の上がっているイリアが余計に一言を付け足した。 「懲りないっていうか。」 満面の笑顔で言ったイリアは褒めているつもりなんだろう。 無表情でルナがスタスタとイリアに近づき、ガンッと鈍い音が響いた。 「…つ…つぅぅぅ…」 頭を抱え込んだイリアに、ルナは鼻を鳴らして勝ち誇ったように笑ってやる。 「き…君たち、凄いね…お兄さん驚きだよ…」 「おほん、さて、吸血鬼さん。お名前と、年齢などなど」 メモ帳を片手に、ルナが趣味爆走モードに突入していた。 ぎっらぎらに瞳が輝いている。 「え、えーと…ちょっと、恥ずかしいな…。名前はナディア・コンフォート。年齢は…えと、没年齢約20歳ってトコかな。それからどれくらい生きたかは秘密。…いろんなコト訊かれたらバレちゃうかもね…」 …約20歳…本当のところが気になるところだ。 ルナに視線に耐えられないナディアは、苦笑いの表情で顔を俯かせた。 「ふんふん…んじゃあその、ヴェルダンテ神学校の制服は成りすましかな?」 なんだこの雰囲気は。 事情聴取してるみたいだぞ?!とイリアは思った。 「なりすましじゃないよ、ちゃんとした生徒だから。」 苦笑いでルナに彼は言った。 「“たくさんの餌に目が眩み入学”っと。」 「え?何言ってるの?!ちょっ、考えの一人歩きはよくないよ?!!」 ぎゃーと、ナディアが叫んだ。 「ふーん。」 冷めた瞳で彼女は長身痩躯の彼を下から覗き込んだ。 身長差は20cm程…彼女が彼を見上げることは当然容易いことだ。 「疑っているね、ルナちゃん。」 「あったりまえじゃない!あんな体験したんだから。」 エッヘンと、威張れないところでルナが威張った。 「言っとくけど、俺。人間の血は吸わないからね。……キッパリ吸わないといってしまうとキツいところがあるかもしれないが。」 「え?」 「俺は突然変異で共食いが趣味。人間より、ヴァンパイアのほうが美味しく感じるタチ。だからヴァンパイア・ハンターって呼ばれる訳。あと、人間を噛んだとしても、感染しないのが特徴かな。」 「へー、そのまま聞いた感じじゃ、なんかエグイけど、人間からしてみればいいことですね。」 「………。」 褒められたんだか、けなされたんだか、わからないナディア。 「じゃ、じゃあ、昨日はどうして死体が無かったんですかね??」 「ああ、それは俺が血を吸い尽くすと、吸血鬼の身体が砂だか灰みたいになって消えるから、遺留品しか残らないんだ。」 「ふーん、不思議ですねぇ。」 「奴らの身体の中で拒絶反応でも起こってんだろうな。」 「ナディア、クレストは??」 むー…と考える素振りをして、彼が言った。 「…どうだろう、俺が勝つか、あっちが勝つか。…あのまま吸われていれば、苦痛を味わうことなく死ねただろうけどね。」 「……。」 「…死んでくれないと、豪いことになるな…」 「あとは〜〜」 目を爛々に輝かせるルナに、ナディアはちょっと、恐怖。 よし、と心に決めて。 「ルナちゃん、女の子がこんな時間に歩いてたら危険だよ。」 すっと、何気ない顔で吸血鬼のキスを。 驚きのあまりにルナが眼を大きく見開いて状況をわかっていない。 「ん…ッ…んん……」 ルナが自然と瞳を閉じ、自然とナディアの唇から離れた。 「おっと。」 意識を失い倒れこんだルナを、ナディアが支える。 「ああッッ!ああ―――?!!!」 真っ白な表情で口をぱくぱくさせてイリアが動揺している。 「このッ、キス魔ぁああぁぁぁ!!!」 ぽかぽかと痛くも無いパンチをナディアに喰らわせる。 「うゎ、イリアったら妬いてるの??可愛いなぁ、もう。」 クスクスと、楽しそうに彼が笑った。 「ってか、お前!!ルナに何をした!キスじゃなくて!」 「本当はさっきイリアもこうなるはずだったんだよ??」 ふぅ…とナディアは溜め息。 「吸血鬼じゃない奴に俺がキスをすると、眠るんだ。」 そう言い終えると、ニヤリとこちらに向かって笑った。 「え?」 …じゃ、俺は?なんか、自分の人間性を否定されているみたいで、嫌だな。 「使えるんだかメーワクなんだか…はぁ…」 「じゃ、吸血鬼にキスすると…?」 鼻で笑って、背の高い彼はルナを背負いながらこう言った。 「あいつらが拒絶反応示して、泡吹くよ。」 「あ…あわわわ…」 「それ、なに?新手の洒落??」 「ち、違うよッ」 楽しそうにこちらに微笑むナディアを見て、やっとイリアは安堵の溜め息を漏らした。 「でも、何でイリアにだけ効かないんだろうなぁ、接吻。」 「相当世代が古いと見た。」 接吻だなんて。 怒ってスタスタ歩き出すイリアに、置いていかれまいと彼も彼女を背負いつつ早足で歩く。 「ちょ、だって、今までこんなこと無かったんだしー…」 にぃ、と彼がまた笑って、冷めたイリアの横に着いた。 「でもいっか、何百年ぶりに面白いもの見つけちゃったし。」 顔を思いっきりしかめて、ますます速度が上がる。 俺は、面白いものかい…そりゃあ…イジリがいのある田舎者でしょうけど。 ……今日はもう疲れた。 夜風に吹かれて、やっと静まり返った町で、冷静に考える。 イリアはやっとスピードを第一変速に戻して、ゆっくり歩けるようになった。 それを見計らって、隣の彼はタイミングよく声をかける。 「…よろしくな、イリア。」 「……うん!ナディア。」 …やっとイジめに程遠い友達ができたとイリアくんは思ったのでした。 |